『硝子の塔の殺人』を読んだ

Twitterでよく見かける作家さんだけど読んだことないんだよな〜、表紙綺麗だな、とジャケ買いした『硝子の塔の殺人』。

大当たりだった。すごかった。

数日かけてちびちび読んでいたけれど、真相が気になりすぎて後半は徹夜して一気に読んでしまった。

トリックのネタバレする気力はないのでオタクのうめき声だけ壁打ちさせてくれ……。
(萌えやエモ語るのでそういう部分のバレも嫌な方はこのページを閉じて作品を読んでください)

本当にすごかった。

本格ミステリハッピーセット。そう!!!オタクはこういうのが好き!!!!!のフルコースだった。

作中で探偵役が名作ミステリのタイトルを詳しく語ってくれるので、未読の名作がたくさんあることに気づくと同時に、知ってる作品が出てきた時の嬉しさもあった。
海外の古典から近年に刊行された日本の話題作まで、国内で流通しているミステリ小説をひととおり知ることが出来る。

ただ、この作品の面白さはミステリを通ってきてる人じゃないとわからないかな、と思った。
ミステリが大好きな人によるミステリが大好きな人のためのミステリなので。

タイトルから察するとおり、この作品は館ものなのでポンポン人が死ぬし変な仕掛けもいっぱい出てくるんだけど、私が残酷で怖いよぅ……と中盤でビビってたところだいたいブラフで脱力した頃にもうひとつどんでん返しがあって腰が抜けた。

そのどんでん返しで明らかになった真相がまた美しくてとち狂ってて最高だった。ミステリ好きならめちゃくちゃ理解出来るけど、実行に移す馬鹿はいないよ。いてたまるか。

あとね、探偵役がめちゃくちゃド好みの女で最高だった。名探偵に憧れて本当になってしまうだけの才能とスキルを持つ男装の麗人……好きになっちゃうじゃんこんなヤバい女。
しかも物語が進むにつれてさらに別ベクトルのヤバさを見せつけられて惚れた。読めばわかる。マジで。カッコよくて無邪気で妖艶さもあって……なんなんこの女。そりゃ助手もほだされるよ。
“名探偵”という概念に取り憑かれた女、最高。
碧月夜。名前覚えました。

ワトソン役にして語り部的なポジを担っていた医者と探偵のコンビがめちゃくちゃよかった。
恋愛未満友情以上の異性間クソデカ感情が大好きなので、惨劇のなかで芽生えて散っていった可能性だけでずっと萌えていられる。

読了後ずっと、最近バズっていた、オタクは“一緒の地獄に堕ちる”を「生涯の伴侶になる」だと思っている奴が多すぎる、というツイを噛み締めると同時に、でも地獄に堕ちず、人生の一瞬だけ交わって生きていく刹那的な関係性もめちゃくちゃ良いよね……と本作を読んで思い直した。

この作品は冒頭で犯人が回想している状態から始まるので、てっきり犯人が犯行をしてから推理で追い詰められていくまでのバトルが見られるのかなぁと思っていた。しかしその犯人にも想定外のことが起こりすぎてて、これは犯人当てのミステリなんだと気づいた。そこも自分にとってはちょっとしたサプライズだった。

結局人がたくさん死んだし犯人もあんなことになってしまったのに、びっくりするぐらい読後感が爽やかだった。

語り手の彼が無事日常に戻って家族と共に幸せを手に入れつつあること、そして“彼女”が本来の姿で生きることを決めたこと。
それらが人間としてまっとうな生き方とは呼べず、闇を背負って生きることだとしても、彼らは自分たちの幸せを求めて強く生きるはずだと予感させてくれる終わり方だからだろうか。

ミステリのトリック部分に関しては、“ミステリオタクによる好きな物のハッピーセット”としか言いようがない。すごかった。
2つ目の事件の発火だけは惜しいところまで解けたけど、密室トリックはお手上げでした。
その先のどんでん返しに至ってはもう「たしかにフェアだしなぜその可能性を考えなかったんだろう」って感じだった。あれ解けた人いる???

マジで面白かったのでミステリ好きな人もちょっと齧っただけの人も読んでください。