『楽園とは探偵の不在なり』を読んだ

※ミステリの真相部分に関するネタバレを含みます。

久々の読書記録。

「2人殺したら天使が地獄に連れていく世界」という特殊設定の本格ミステリ、という内容に惹かれて読み始めた。

『私が大好きな小説家を殺すまで』を読み、ミステリーらしい事件を通して感情を描くのが特徴的な作家さんだなぁと思い、今回も期待して手に取った。

天使の造形がめっちゃ不気味で、カバーイラストのコウモリみたいなやつが天使なのか……全然可愛くねえな……とゾクゾクしてしまった。

2人殺した時点で地獄に引きずり込まれる、という設定のインパクトもすごいが、「じゃあこれはどうなるの?」というケースをあらかじめ少しずつ物語の中で紹介し、よく練られた設定をわかりやすく提示してくれるところもすごくフェアで良い。

単純に考えれば、2人殺したら地獄行きなのに連続殺人事件が起きるということは実行犯が複数いるということになるんだけど、最初に2人目が殺された時点で行方不明者が出て地獄に落ちたのでは?という筋書きになるのも上手い。

ミステリ慣れしてる人ならここで「消えた彼は実は生きてどこかに潜んでいるのでは?」という疑いを抱くものだけど、天使の設定と真犯人の思惑はその推理をあっさり否定する。

シンプルなクローズドサークルもので、読みやすい文章とよく練られた設定といい、読者にとっても十分推理するだけの情報を提示されているのに、作中の探偵と同じく、なぜかひっかかって解けないもどかしさがある。
だからこそ、最後の謎解きがスッキリする。「さて」で始まるというお約束もキッチリ守る辺りに好感が持てる。

この作品、特殊設定の本格ミステリとしてもめちゃくちゃおもしろいんだけど、そこにさらに「探偵とはどうあるべきなのか?」「善人が報われるとは限らないし、裁かれない悪もある」「人間と絶対的なルール」という、天使が存在する世界で天使に人生を狂わされた人間の苦悩や問いかけが繰り返しなされるところも魅力だと思う。

主人公の探偵も人間味があってとても好き。探偵というとどこか人間離れしているイメージがあるけど、今回の連続殺人事件が起きた時点でこの探偵は大切な仲間もそれまで追いかけていたような派手な仕事も失っていて、探偵というアイデンティティすらなくしかけていた人間が探偵としてもう一度立ち上がる物語でもあったのかな〜と思う。
すでに故人だけど、赤城たちがめちゃくちゃ良いやつで死ぬには惜しいことはわかる。
だから、凄惨な最期に読んでるこっちまで心が痛む。

読みやすいのに登場する人間の感情がクソ重い、『私が大好きな小説家を殺すまで』で感じた読み味でもあるので、やっぱり作者の持ち味なのかな〜と思う。
他の著書も機会があったら読むね。正直めちゃくちゃ好みの作風なので……。