『東海寺迦楼羅の事件簿①』を読んだ

東海寺祖父と麻倉祖父によるバディ冒険譚と聞いて「同人誌か!?」と呻き声をあげながらもずっと楽しみにしていた本。
ようやく手に入れ、読み終えた。

どうやらフラゲできるらしく、発売日に探しに行ったものの、県内の大きい本屋を回ってもなかったので、仕方なくネットで取り寄せた。

これから書店で探す方は、児童書の高学年または中学生向けのコーナーを探すといいと思う。
同じ講談社の「YA!」(マチトムが出てるレーベル)と同じサイズ&対象年齢なので、近くに置いてあるはず。

ぶっちゃけ、ネットで取り寄せた方が早いけど。
それでは、感想という名のオタクの新鮮な悲鳴をどうぞ。
※最後の方だけ左右の話をするので閲覧注意!


☆作者、やりたい放題じゃねーか!

あとがきから読む派なので、真っ先にあとがきを見た。
石崎先生の、作品世界やキャラクターに対する愛で溢れていた。本当にやりたいことやりたい放題やったんだなぁ、とニコニコしてしまった。
普段は「小学生の読者の興味・関心」を意識して「黒魔女さん」などの人気作品を執筆している先生だからこそ、書きたい世界を思いっきり書いているというのが伝わってきた。

今回の対象年齢が中学生だとしても、時代背景と差し込まれる蘊蓄や東洋呪術ネタ、そしてコラボ作品にチラッと出てきたキャラを主役に据えたスピンオフというニッチさを考えると、「これが先生の書きたい世界かぁ!」と感じずにはいられない。
黒魔女さんと同じ世界線なのに、まるで雰囲気が違う。とても良い。


☆黒魔女さんとはひと味違う呪術の世界

『黒魔女さん』は西洋魔術がベースで、オヤジギャグや魔法少女的要素などのポップで時々ダークな世界観が魅力。
しかし、『東海寺迦楼羅の事件簿』(以下、迦楼羅編と呼ぶ)では、東洋の呪術がベースで青年陰陽師が主人公、ギャグはほぼ皆無で全体的にはミステリー仕立てになっている。

オカルトの類は本物とイカサマが混じり、本物のオカルトを利用してのトリックも使われる、そんなロジックとマジックの共存は、黒魔女さんでもお馴染みの展開。そこに、たしかに世界観が繋がっているなぁという気がして嬉しくなった。

黒魔女さんを読んでいて、「東海寺くんの霊能力って黒魔女の魔力とは別物なのかな?それとも同じような存在なのかな?」という疑問がわいたんですが、これ読んでだいたい解決した。
東海寺家やその他拝み屋の霊能力は、仏教や神道その他東洋の神様からきてるんだね。
黒魔女の魔力は魔界の月から得ている、という設定が黒魔女さんで出てきたので、似たようなことが起こせても別物なんだと自分は解釈した。(それに、黒魔女の呪文は『光を嫌う者』という意味があったり、黒死呪文がサタンやベルゼブルに生贄を捧げる、といった文だったりするのでどっちかというと悪魔から力を借りてるっぽいんだよな)
東洋の白魔術と西洋の黒魔術で、その力も神様由来と悪魔由来(たぶん)で本当に別物なんだろうな。

黒魔女さんを読んだ人によっては「東海寺くんって家がお寺なのになんで陰陽師の格好してるんだろう」っていう疑問があったと思うんだけど、その説明もしれっとされてたね。
祈禱寺は結果が全て、ありとあらゆる呪術を使うので仏教にこだわる必要もないってことなのでまぁそういうことなんだと思う。

迦楼羅編、対象年齢が黒魔女さんより上なせいか、呪術のエグさが初っ端から飛ばしすぎでは?
人体発火は人を呪い殺す術だし(用途としては黒死呪文と同じ)、記憶も霊力も抜かれるって未完ジュースと同じことが起きてるし……。

作者はめちゃくちゃ東洋の呪術や怪奇現象、当時の時代背景について調べたんだろうなぁ。蘊蓄の量がハンパねぇ。
既に読んだフォロワーさんが「難しくてよくわかんなかった」と言ってたけど、自分も初めて見る漢字や横文字のオンパレードでビックリした。
アクセル全開すぎる。全ページに解説係の鈴木薫さんを配置してほしい。


☆ミステリ仕立てのバディものとして

ミステリーとバディものは相性が良い。
この本だと、迦楼羅さんが探偵役で豪太郎さんが助手役といったところか。
殺人犯の濡れ衣を着せられた豪太郎さんが事件を持ち込んだように見えるが、真相を追ううちに、迦楼羅さんの父や妹の消息を追う物語へシフトしていく。
まず主人公の迦楼羅さんが本物の霊能力を持った陰陽師なので、怪奇現象や呪術が本当に存在するという前提で物語は進んでいく。

存在自体はオカルトな式神の存在が、ミステリではお馴染みの入れ替わりトリックに使われるといった、ファンタジーとミステリの共存がめっちゃいい。これこれこういうのが好きなんですよ……(個人的な好みの問題だが)

ミステリとしては変格にあたるのかな……?思ってたよりもだいぶ論理的なストーリーだったし、広義の特殊設定ミステリといっていいんじゃないかな。知らんけど。

迦楼羅さんと妹さんがそっくり、というのも今後なにかのトリックかミスリードに使われそうな気がしている。男女の双子って二卵性双生児なので、顔が似るとは限らないんですよ。わざわざそっくりって何度も言われてるのも、今後なにかあるからな気がしなくもない。

作中の蘊蓄は極道に関することはあまりなく、呪術や本にまつわることが多かった印象がある。タイトルの通り、迦楼羅さんが関わった怪奇事件を巻き込まれの豪太郎さんが助手的ポジションで記録していくって感じだった。
せっかくのバディものなので、続編では逆にヤクザさんの世界に首を突っ込む迦楼羅さんも見てみたい。講談組ができるまでの話、そのうちやってくれないかなぁ。


☆ちょっひりBL(!?)

わ、わっっっっかりやすい!!!!!
……って思った。いやマジで。
豪太郎さんによる迦楼羅さんの顔面描写、寂しがりな迦楼羅さんが豪太郎さんに甘えがちなところで変なうめき声が出た。
そしてそんな迦楼羅さんになんだかんだで協力してあげちゃう豪太郎さんな……。

フォロワーさんたちが「そこまでたいしたことなかった」「ギュービッドとチョコのほうがヤバくね?」って言ってたから若干ハードル下げたけど、これは普通に見る人が見れば「わかりやすっっ!!!!!」ですよ……。
恋愛や性愛ではないかもしれないが、Loveであることは間違いない。Big LoveなのでたしかにBLだ……。
だいたいこいつら、出会って2日かそこらで命乞いのセリフが「わたしの大事な人を燃やさないでください!」だぞ。そこで大事な人アピールする必要ある?
っていうか、219ページといい、出会って数日の人間の距離感じゃねーよ。バグりすぎだよ。

そもそも出会って数日の青年が、生まれてからずっと一緒だった妹と生き別れた寂しさを埋めるほどの存在になってるって時点でクソデカ感情じゃん。
本筋(?)とも言える妹や父を追う、怪奇事件の真相を突き止める、というのとはあまり関係がなさそうな描写なのがまた……。

唐突にねじ込まれる探偵と助手のクソデカ感情と関係性がバディものの魅力なんだよな……(待ってここでその男男感情いる?というツッコミをしないとこっちの気が持たない)

作中であれだけ顔面が良いと描写されてる迦楼羅さんが孫にそっくりなこと、そしてその顔面の良さを描写してるのが孫のライバルである麻倉くんの祖父であることを思い出して「はァ〜〜〜(クソデカため息)」となっている……。

この本に出てくる迦楼羅さんと豪太郎さんだけを見ればね、「ああ、この2人は仲良しなんだな」で終わるんだよ。
でも、黒魔女さんを読んでると、そっくりなお孫さんたちが1人の女の子をめぐって張り合いつつも時に協力するライバルであることと、迦楼羅さんが亡くなった後ですら隠し部屋で会っていることなどの情報が加わり、様々な文脈を感じてしまうのだよ……。いやマジでなに……???

お孫さん達は知らないんだろうな……たぶん……。
でも、迦楼羅さんを尊敬する東海寺くんなら少しくらいは若い頃の冒険譚を知ってるんだろうか……?
麻倉くんもなんだかんだで東海寺くんに甘いのは、祖父の代からの繋がりを知ってるからとか……?って思ったけど、まだ小学生だし、チョコを巡って張り合い続けてライバルとしてフェアでありたいみたいな気持ちからなのかな……?
とにかく知らないんだったらこの2人に知ってほしい。どんな顔するんだろ……。

あと、ギュービッド大作戦のときは性格も孫とそっくりなのかな、と思ってたんだけど、こうしてみるとだいぶ違うな。
6年生編の時点でん?とはなってたけど……。
意外と迦楼羅さんがお茶目かつ論理的な感じだった。孫はどっちかというとエネルギッシュで突っ走るタイプな感じだし。
豪太郎さんも、大作戦のときは「孫にそっくりだな」と思ったけど、そうでもないな。時代背景のせいか、お育ちが全然違う。叩き上げって感じする。
孫の方はなんだかんだで育ちが良いんだなって思うシーンも多いので……御曹司……。
黒魔女さん本編時点で11〜12歳の孫たちと、迦楼羅編時点で18歳の祖父たちでは精神年齢が違ってあたりまえだけど……。
あれだけ祖父と孫が似てると描写されてて、もしこれが舞台やドラマだったら若い頃の姿は同じ役者が演じてそうな……なんというか、スターシステム的なものすら感じてしまうほど共通点の多い外見・性格・関係性なのに、全く違う時代を生きる全く違う人間なんだなってわかって安心した。
黒魔女さん、魔界⇔人間界、祖父母⇔孫でそっくりな人間を出す例が多すぎるので……。

そういや、先祖と孫がそっくりだけどわかりやすい違いがあるケース、どっかでと思ったらチョコとティカの関係にそっくりなんだ。
この祖母と孫も外見や雰囲気、絆されやすい性格がそっくりなんだけど、惚れて執着する男のタイプが全然違うしな。(最低な感想)

ところで、FF内外でどっちが左右なのかリバなのかで盛り上がった(?)みたいですが(そんなようなアンケートが何度かTLを駆け抜けていった)、自解釈は現時点ではかるごうかるでいこうと思います。
精神的な左右の話(もし体の関係になってもまぁそうなりそうだよね、的なふんわりしたものだと思ってほしい)になるんだけど、どちらかというと飄々と振り回すのは迦楼羅さんの方で、豪太郎さんが絆されてるって感じするじゃん。
でも、積極的に甘えてかまってアピールするのも迦楼羅さんなんだよな。豪太郎さんもなんだかんだで応えてあげるあたりにリバの可能性を見た。219ページね。
というわけでBL的解釈はかるごうかるです。

言いたいこと言ったんでそろそろ終わりにします。
続きがいつ出るのかわからんけど楽しみです。