『キングレオの回想』を読んだ

タイトル通り、面白い本を読んだのでその感想。
1作目を読み終えたところで気が狂い、車で1時間先にある大きな本屋まで行って続編を買ってきた。

1作目のフレッシュな感想↓
https://mizumint.hatenablog.com/entry/2020/03/20/145340

1作目以上にパワーアップしたクソデカ巨大感情でこっちの情緒がさらにめちゃくちゃにされた。
お馴染みの邪悪な美少年に加え、誰かの心に己の存在を刻みつけたくてたまらないお姉様に、強火のファン代表(腐女子)にまさかの名探偵YouTuberデビューと盛りだくさんだった。

前作に比べるとエンタメ……というかクソデカ巨大感情に全振りって感じで、本格ミステリ要素は控えめだったかな? 小さな事件の動機当てを少しずつメインキャラの感情描写に絡めていく様は見事だった。

トリック等のネタバレはしないけど、話の内容についてはガッツリ触れるので未読の方は注意。



☆男と男の関係性に女を挟むと地獄が完成する

邪悪な美少年の次は魔性の女かよ!?!?!?
よ、容赦ねぇな〜〜〜!!!(キャッキャッ)

女と女の関係性(百合)に男を少しでも出すと大炎上するんですけど、BLの世界では関係性に深みを持たせる女の存在は歓迎されるんだろうか……?と少し考えてしまった。
本作は合法BLと巷で呼ばれているけど(作者のTwitter見るに公認?)、描写としてはブロマンスだと思うので、むしろ女の存在は個人的には大歓迎。

大河が密香の例の申し出に返事する前に、獅子丸がブチ切れたうえ、「獅子丸でもいいしなんなら3人でしてもいい」という密香の提案に渋々乗っかろうとするあたりがさぁ……いやほんとマジで何。何!?
騒ぎになるリスクとか考えても応じるなら元彼である大河の方がマシなんだけど、それでも獅子丸が代わりになろうとするのマジで何。
社会的な地位<大河かよ。なんだこの重い男。




☆公式で腐女子を出すんじゃねえ!(よくやった)

作者の腐女子に対する理解が深すぎる。
関係性!って俺たちよく日頃から叫んでるもんな。

明確には書いてないけど、オーディションを受けに来た同人作家の女の子ってどう考えてもキングレオと助手でBL書いてる腐女子やんけ。
左右の解釈まで公社の人間に話してるの怖すぎる。
助手無しのキングレオシリーズが書けるのか?という質問に対する答えや、獅子丸が先で大河が後という話を見るにおそらく助手受け派の腐女子だな?
おそらく助手が推しだと思われる。

そして恐ろしいことに、大河は彼女の二次創作物をチェックしたことがあるんだよな……。
そういう趣味がない人間が読むには相当な精神力がいると思うんだけど、大河すごいな……。
何が悲しくて、自分と従兄弟のBL二次創作を読まなくてはいけないのか。原作者ってそこまでするのか。お疲れ様です……。

そもそも作中世界線だとキングレオシリーズって半ナマなのでは!?原作者の目に触れる場所で二次創作なんてしても大丈夫なのか!?
あの世界の、獅子丸と大河が実在する世界線の人間じゃなくて本当によかった。
こんな半ナマ二次やってるのに隠れもせず公式ライターの座を狙ってるような奴が二次創作界隈の大手とかヤバすぎでしょ。
悪気はなくて、純粋な作品愛なのが救いか。

もし自分があの世界線キングレオオタクだったら愚痴垢作って延々とインターネットでキレてたぞ。
大河が原作者としてマトモで本当によかった。



☆メディアミックス作品の原作者としての大河

キングレオシリーズにかける大河の姿勢は原作者として素晴らしいと思う。
関連プロジェクトを全てきっちり監修していて、先方のわがままを通さない。
邦画あるあるなゴリ押しキャストや脚本改変を良しとせず、ちゃんと全部監修する。原作者として、シリーズのクオリティを守るために作業に打ち込む姿は尊敬に値する。
……でもそれってクリエイターとしてのプロ意識というよりかは獅子丸と、彼をモデルにして生み出したキングレオというキャラクターに対する巨大感情から来ているんだよな。愛が重すぎる。

そのクソデカ巨大感情がわかるのが、9.5点で合格した烏有に対して「10点をつけなかったのは、自分のプロットが10点だから」という一連の流れだよ。
後任を探してみたはいいけど、やっぱりキングレオ譚を書けるのは自分しかいねえんだよってここぞとばかりにマウント取ったな。怖ぇよ。
やっぱりヤベー奴じゃん!!!(大歓喜)

そういや烏有のデビュー作に登場する女性2人組のモデルはあの2人なんだよね。あの2人をモデルにした百合を書いたのか(言い方)。それはそれですげぇな。




☆半年かけて研ぎ澄まされた美少年の巨大感情

隔離生活の中で、本気を出して戦える相手の資料を集め、論文が書けるほどの研究と分析をしていた……それだけでどれだけの熱を獅子丸に向けているのかがわかる。

「天才の孤独を理解できるのは天才だけ」「救わせて欲しい」
彼はこれまで犯罪“コンサルタント”で、自らの手は汚さなかったんだよな。
あと少しで出所というところで療養所を脱走し、ハッキングして仮想通貨を根こそぎ奪うという犯罪に手を染めた。
名探偵が引退という死を選ぼうとしたから、終わらせたくなくて、救いたくて、犯罪者としてその死を全力で止めに来たんだ。
こんな壮大な自殺阻止ある!?!?!?
余命数年のなか、ようやく現れた本気で戦える相手……彼のためにそこまでするのか。

名探偵はその実力に見合うだけの一流の犯罪者がいないと名探偵ではいられない。なら一流の犯罪者がいるかぎり、名探偵は名探偵であり続けられるってか。

高所から飛び降りるという自殺に近い行動をもって、名探偵の緩やかな自殺を咎めたの、とても美しい構図だな。

これが半年かけて培ってきた獅子丸への巨大感情か。ヒェッ。
ガールフレンドにまで「負けた」と言わせてしまう強い熱だよ。熱すぎてこっちが火傷しそうだよ。
あのお育ちが良くて邪悪な美少年が、声を荒らげるほどの感情だよ。ヒェッ(2回目)。






☆さては獅子丸→→→←←大河だな?

獅子丸の方が感情が重たいよね!?!?!?
ヤベー奴レベルでいえばおそらく大河の方が上なんだけど、人間の感情として重そうなのは獅子丸の方な気がするんだよな。

大河の方がわりと「獅子丸のいちばんは自分だ」って意識が強い気がする。
普段振り回してるように見える獅子丸のほうが、1人の人間として大河のことを案じているのでは。
だから自分の直観が鈍ったのを機に身を引こうとしたのか? 大河がちゃんと従兄弟離れできるように?
もちろん引退を決意したのは無謬の名探偵としてのキングレオに傷をつけないためという考えあってのことだけど、それだけじゃないよね。
お互いの従兄弟離れをしたいのか?
烏有を助手にしたのもそのため?

お互いを理解できるかと一緒にいたいかどうかは別だと思うんだけど、「理解できなかった」ことでああなったんだよな……。
1作目で2人の日常と関係性の深さを描き、2作目で壊す。後ろ髪を引かれるようだけど、不思議と爽やかな終わり方だった。

でも続きがほしい気持ちもある。
続きそうで続かなそうで続く、そんな感じがする。
あと、人物紹介にあるもののなかなか本人が登場しない桜花という探偵のことも気になる。